『その冷えた指先にR』  
   
(7)



すでに緩んでいたそのふっくらとした下唇を軽く吸い上げ、すぐに上唇を舌先でくすぐれば、待ち焦がれていたように濡れた舌が僕を追いかけてきた。舌の中心をゆっくりとなぞってそのまま奥の方の、イイところを舐って。体がピクリ、と小さく反応を返してきたのに思わず頬を緩めつつ、今度はもっと弱いはずの上顎を攻めた。すると、それを阻止するかのように、彼女から舌を絡めてきくるから。遠慮なくその柔らかくて暖かい舌も存分に味わっていると、んん、と少し苦しそうな気配。

名残惜しいけど、ちょっとだけ離してあげれば、途端に、はぁ……っ………っと零れた息継ぎの声がまた色っぽくて。

その上、まだ無意識なんだろうけれど、僕の首に両腕を回して縋りついてきた体から立ち上ってくる甘い香りに、もう最後に残っていたはずの理性のかけらさえ吹き飛ばされた。もっとその体温を直接味わおうとブラウスの裾から手を入れて、直接、温かな肌に触れれば。冷たい僕の手の感触に驚いたのか、びくり、と体が竦みあがった。

(あ、起きたかな?)

のん気な僕の反応とは裏腹に、ほとんど飛び起きる勢いで目を覚ました麗華さんは、ようやく現実を認識したらしい。

「ちょ、ちょっ…と! やま…だ、く……んっ?!」

目を見張って僕を凝視しつつ、手は、すでに柔らかい胸のふくらみに到達していた僕の手を必死に押し留めようとしているけど。かえって押付ける格好になっていることには気づかないらしい。まったく、ほんとに……かわいいんだから。

ビューラーもマスカラも必要ないほど、くるんときれいにカーブしたそのこげ茶色の睫も。涙で潤んだ、ダークブラウンの瞳も。小さく開いたままの、薄い色の唇も。

(……僕を誘っているようにしか見えないんだけど?)

どうしても『ヘタレの山田』と自分の記憶にある『ふみくん』とが繋がらないらしく、怯えた表情で見上げる 麗華さん……。そんなに驚くほど僕の変身振りって完璧だったんだなぁ、と可笑しくなりつつも、これ以上怖がらせてもかわいそうかと思い直した。

んーそうだな、最後のヒントは――ベッドの中だけ、という約束で呼ぶことを許してくれた、その愛らしい呼び名ってことで。


「……れ〜いちゃん?……ま〜だ……思い出さない、の……?」


(これでばっちりでしょ?)


目一杯にこやかに笑いかければ。


どうやら、もっと驚かせてしまったらしい。……小さく息を呑むと、彼女は、さらに大きく瞳を見開いて固まってしまった。

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