『その冷えた指先に』  
   
(1)



――ねえ、聞いた?

『うんうん。とうとう来るんだって?例の…』
『そ。本社チーフAEの……「氷の女」!』
『やっだぁ〜。今度のイベントって、担当誰だっけ?』
『それがさぁ、山田くん、だって。』

――えぇ〜〜〜っ!!

『って……人身御供?!』
『……くすくす……ていうか、「女王様と下僕」?』
『ちょっと、亜矢、ソレいいすぎ!』

――きゃー、でもぴったりぃ〜

「………」

まったく……もうすでに来てるって。その噂の「氷の女」がね。
給湯室から漏れてきた女子社員のはしゃぐ声に内心うんざりしつつ、カツカツとヒールの音を響かせて目的の部屋まで迷いなく進む。

――『営業2課』

プレートを確認するまでもなく、中から人が勢いよく飛び出してきた。

「わっ」

ご、ごめんなさい……っ、大丈夫でした? そう言いながら、ぶつかられてよろめいた私の腕を片手でつかみ、その細身に似合わない力で軽々と引き上げた若い男が、笑いかけてきた。ったく、前くらい見て歩け、ボケ。そう言いたいのをぐっと堪えて、わざと男の問いかけはさっくり無視し用件のみを切り出した。

「ここが2課?」
「あ、はい、そうです、あの、何か御用でしょうか?」

そんな私の態度を気にもかけない様子で、ニコニコと人の良い笑顔を浮かべているのが、なぜか妙に腹立たしい。そういえば、

「うで。」
「え?」
「腕、放して」

わわっ!す、すみませんっ!あのっ……わたわたと慌てた様子に少し溜飲が下がったところへ、その騒ぎで私の姿を認めたらしい、ここで唯一面識のある大沢部長がこちらも慌てた様子で飛んできた。

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