『その冷えた指先に』  
   
(7)



長くて甘い、甘い……キス。

柔らかくて暖かい唇と、優しい舌の動きにうっとりと夢見心地で応えながら、今日は何でこんなに彼のことをリアルに思い出すのだろう、と頭のどこかが疑問を投げてきても――そんなことよりも。

ほんとうに久しぶりに感じる、このぬくもりを失いたくなくて。
こちらが応えるのをやめたらきっとこの幻は消えてしまう、と、背筋をえも言われぬ恐怖感が這い上がってくるのを必死で振り払うように。舐ってくる舌に舌を絡めて、注ぎ込まれる甘い雫を受け取って。

「はぁ……っ………」

息継ぎをした拍子に離れたぬくもりを取り戻そうと、無意識に腕を伸ばして縋りついた。
もう一度塞がれた唇に安堵して、緊張を解いた、次の瞬間。

び、く。

…………ブラウスの下、直接肌の上を下腹部から脇へと滑っていった冷たい指先の感触に、一挙に意識が現実を認識する。



(えええっ!?)




「ちょ、ちょっ…と! やま…だ、く……んっ!?」


ほんの先ほどまで『彼』の幻だと思っていたぬくもりは本物で。しかも。その相手というのが――影で自分の「下僕」と呼ばれている札幌支店営業二課・山田課長代理だったことに――ざあっと一瞬にして血の気が引くほど驚いた。

それなのに。

口の端を少し持ち上げ、悪戯に成功したような顔で笑う『ヘタレの山田』は別人のようで。よく見れば意外に整った相貌……情熱を湛えた黒い瞳にじっと見つめられ。うっかり見惚れてしまっていると。


「……れ〜いちゃん?……ま〜だ……思い出さない、の……?」


にっこりと鮮やかに笑った目の前の男に、ベッドの中だけという約束で『彼』だけに許した名前で呼ばれ――――頭が真っ白になった。

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