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 気づけば、いつの間にか……木村家の近くにある、大きな公園の前に来ていた。足元の歩道を後200メートルくらい少し進んだところに、女子高生の群れと、少し彼女たちよりも背の高い、貴史くんの姿。

 制服を着ているということは、今日は登校日か何かだったんだろうか……。

 おいそれとは近づけない雰囲気を目の前にして、少し冷静さが戻ってくる。

 そこへちょうどやって来たのは、ドラマか何かのような黒塗りの高級車。運転手が後部座席のドアを開けるより早く飛び出してきたのは、例のクリスマスパーティーで隣にいた少女、だ。あれから一年以上経って、少し大人びた気もするが、ストレートの黒髪を顎のあたりで切り揃えた髪型と、抜けるような白い肌は、記憶の中の、あの日のまま。

 色めき立つ女子高生たちをものともせず、ほとんど抱かかえるようにして貴史くんの腕を取って家の中へ消えてしまった。呆然としていた私の傍を、女子高生たちが興奮した様子のまま通り過ぎる。

「何あれ」
「お兄ちゃんは私の許婚です!だって」
「いまどき、許婚ってさぁ〜」
「参ったよね、、」

 ……ああ。やっぱり。やっぱり、そうなんだ。

 覚悟していたこととはいえ、勝手に震えだした身体を自力で止められない。視界の端で捉えたベンチに何とか辿り着き、崩れ落ちるように座り込んだ。ふと、気づいたのは…爪の先まで紫色に変色した……自分の両手。

 『あーもう、またこんなに冷たくしてー』
 『僕が今、暖めてあげますからね』

 暖めてあげる……そう言う貴史くんに両手を取られ、そのままベッドに連れ込まれることはもう、半ばお約束のようになってしまっていた。そういえば……つい昨日も、そうだった。けれど。

 あれは本当に、彼が優しさから発した言葉だったのだろうか?
 あの、重ねた身体は……優しい言葉と熱い息を私に惜しみなく与えてくれた……あの、彼の少し薄めの綺麗なバラ色をした唇は……?

 本当は。

 これまで恋愛経験の一つも無かった年上の女を落とすゲームに夢中だっただけなのではないか?それとも、彼が調査書の内容を知っているのだとすれば、自分より不幸な生い立ちを背負った私への同情、か。……それは、十分あり得る。

――だって私は……

 本当は、望月麗華、なんかじゃないのだから。
 本当は、日系ブラジル人かどうかも怪しい。

 ブラジルの貧民窟ファベーラ生まれの、ストリートチルドレンのひとり……売春婦の母と誰かわからない父を両親に持つ、孤児だったのだから。警官だった父――もちろん今の、だけれど――が、殺人現場から連れ帰った被害者の娘、それが私なのだから。










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