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 木村夫人から渡された、探偵社の提出した調査書によれば、私は、リーザと呼ばれていたらしい。らしい、というのは、売春婦が父親が誰かもわからずに産んだ子供だった私は、出生届さえ出されていなかったから。ましてや正式な証明書類などあるわけもなかった。あるのは、近所に住んでいた人や望月の親戚たちから得られた証言と、警察の調書、だけ。



 添付されていた現地の調書によれば、その日――私と警察官をしていた日系ブラジル人二世の望月正一が出会った日――彼は、隣から銃声がして男が慌てて出て行ったという住民からの通報を受け、ファベーラの一角にある古びたアパートの一室に同僚1名とともに駆けつけたという。小さな部屋のほとんどを占めるベッドには、銃弾を数発打ち込まれ血まみれで半裸の女が事切れていた。

 そして部屋の隅、粗末なダイニングテーブルの下には、ぬいぐるみを抱いて放心状態の幼い娘・リーザ――つまり、私――が座り込んでいたという。殺されていたのはその部屋の借主、アパレシーダという名の売春婦だった。



 不思議なのだが、私の中にはその頃の記憶が無い。

「本当に……私はリーザ、なんだろうか…」

 電車の音に紛れるくらい、そっと自分の思いを呟いてみた。

 まだ幼かったから……といえばそうなのかもしれない。また、よく言われるように、耐え難い記憶を自ら封印している、ということも考えられる。いずれにせよ。覚えの無い日々……あれは悪い冗談だと、思いたい自分がいる。

 けれど、車窓に映った自身の姿と向き合ってつくづく眺めれば、私の肌も、髪も、顔も。どこもかしこも……父にも母にも似ていない。
 何一つとして、似ていない。





 さらに記録によれば、4歳だった私の的確な証言により、その男はすぐに身柄を拘束され、母と口論になった挙句に銃を持ち出すに至った原因を次のように説明した。

 曰く。母の常連客だった男は、母の留守を狙ってちょっとした(これは証言どおりの言葉である)悪戯を私に対して行っていたのだという。その日、たまたま早く帰ってきた母にそれを見咎められ……カッとなって、脅すつもりが誤って殺してしまった……ということだった。

 だが。警察は家宅捜索で、男が語らなかった真実を暴き出した。

 パウロと言ったその男は、幼い子供たちとの猥褻行為を撮影したビデオや写真の売買はもとより、その手の趣味の外国人相手に人身売買まで行っていたことが判明したのだ。犠牲となっていたのは貧しいストリートチルドレンたち。多くが片親だったり、両親を亡くしていたり、中には両親が健在な場合でも、いろいろと雑多な理由で家に居場所が無く、ストリートをふらふらとしている子供たちだった。



――そして。



 まだ4歳の幼女だったリーザも、その被害者の一人だったのである。









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