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「どうぞごゆっくり〜〜♪ついでに良かったらシャワーもどうぞ。」
「……シャワーは、家を出る前に浴びたから、」

 機嫌よくかけられた声に、つい律儀に反応してしまって失敗した。

「ふぅん……いつから?」

 いつの間に傍に来たのか……やんわりと、でもしっかりと貴史くんの大きな手に二の腕が掴まれて。その熱に、背筋が震える。

「先生、……いつから、ここに来る前にシャワーを浴びてくるようになったの?」

 今にも触れてきそうなほど近くにある彼の艶やかな唇から、それに相応しい色香を乗せた声が鼓膜に直接注がれる。それだけで体の中心から力が抜け、座り込みたい衝動に駆られ、膝が微かに震えた。

「どおりで、最近は「先にシャワー」って言わなくなったと思った」

 そっか……やっぱり、毎回ちゃんと準備してきてくれてたんだ? 恥ずかしくて逸らした顔をわざわざ覗き込まれて、かっ、と一瞬にして全身が燃え上がるように熱くなる。

 そうなのだ。毎回当然のように彼に身体を求められるようになってから、いつしか家庭教師のある日には夕方出かける前のシャワーが当たり前になっていた。よく考えてみれば、それはあたかも……そういうこと、を期待してると受け取られても仕方がない所業で。

 だめだ……恥ずかしすぎる。切れ長の目が眇められ、含みのある視線が楽しげに煌いて見上げてくるのを直視し続けられなくて、だからといってこれ以上顔も逸らせなくて………咄嗟に目を瞑った。

「あーもー先生ってば、可愛すぎ」

 ちゅ、とやわらかなキスが、恥ずかしさに固まっていた私の頬に落とされた。実はそれが、零れたしずくを吸い取って行ったのだということに気づいて、居た堪れなさに唇を噛めば。ふわり、と大切なものを抱えるように抱きしめられた。穏やかな抱擁で、魔法のように心が落ち着いていく………ほっと息を吐くと、

「冗談ですよ。待ちきれないですから、早く着替えてきて、」

 そう言って、身体の割りに大きくがしりとした両手に頬を包まれ、軽く啄むようなキスと共に脱衣所に送られた。







「……最悪………」

 まだ火照っている頬を自分の両手で冷やす。もうすぐ別れの時だというのに。彼の行動はいつも予測がつかなくて、どうしても彼のペースに飲み込まれてしまう。こんな事で最後にちゃんと、別れのせりふが言えるのだろうか……段々不安になってきた。

 それにしても。
 
「……これを、……一体どうしろ、と?」

 ほとんど紐だらけで、一見しただけではどうはいたものかさえわからない……ティーバック……という下着を手にして、大きな溜息が出てしまった。

 彼に渡された着替え一式は、背中が思い切り開いていて、スカート部分にも深いスリットの入った淡いグリーンのスリップドレスと、この、今手に持っている本当に意味があるのかわからないような下着が一枚のみだった。

「はぁ。眺めていても仕方がない……とりあえず、こう、か?」

 ティーバックをよく眺めて見れば、ウエストラインの背中側にラインストーンでできたハートの形の飾りがついている。それを目印に方向を見定め、思い切って足を通してみた。

「…………」

 これは……恥ずかしすぎる。もちろん、裸だって何度も見られているけれど……でも、こんな格好は、裸よりも恥ずかしいかもしれない。

 できれば自前の下着で何とか……




「ならない、か」

 鏡を見て、落胆した。着替えたドレスは、ぐっとあいている背中側が腰の辺りまで露出する作りなので、普通の下着では、いかにも「はみ出しています」という感じがみっともなく余計に恥ずかしい眺めだ。これならば、まださっきの方がまし、と判断を下し、もう一度ひも状の下着にはき替えた。

 ついでに言うと、ノーブラだというのも落ち着かないが…ドレスの構造上どうにもならないのでこれも諦めた。

「……ぁ、………」

 鏡を見て驚いた。…………ママィ……?

 一瞬、まるきり別の人物が映っているのかと思うほど、大胆なドレスはヒスパニック系の特徴が目立つ顔立ちと褐色の肌にしっくりと馴染んでいて。資料にあった、生前の母の、たった一枚の写真……窃盗で捕まったときに撮られたというモノクロ写真に生き写しな自分がそこには呆然と立っていた。











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