The last ...?     A






「はっ……ぁっ……ン……っ」


 熱くて堪らないものが、柔らかな内側を容赦なく抉り。突き上げ。掻き回し。揺さぶってくる。何度も何度も。強烈な、快感。……あいしてるあいしてるあいしてるっ。思わずあがりそうになる悲鳴に近い声を強く頭を左右に振り、ぎりぎりと噛み殺す。


「…ぁあっ…………ふ、み、……っ」
「……………れい…ちゃ…………っ」


 切なげな声と同時に抱きしめてくる、強い腕。……もっと、ぎゅっとして欲しい。そう思ったのが聞こえたかのようにもう一度しっかりと抱き直されて、ほっと息を吐く。彼の、しっとりとした肌に頬を寄せてその匂いを深く吸い込んだ。どうか。お願いだから……一生分のあなたを、私にください。ずっとずっと……


 ……あしいてる。


 思わず零れそうな言葉を塞き止めるため、私は自分から彼を引き寄せ、唇を重ねた。もうそれは癖に近い……行為。この部屋の何処かに仕掛けてあるはずの……盗聴器、という狂気に逆らうための、私なりの抵抗だ。私は沈黙を守ることで……私自身を、そして何よりも、大事な……この愛を守る。……大事なものすべてを、あの人の手から守るのだ。






『随分と、仲がよろしいのねぇ』

 先生と生徒、というよりも恋人同士よね、これでは。

『そうじゃないこと?ね、牧野。あなたもそう思うわよねぇ?』

 少し話があるからと、彼の母親に呼び出された秋の日の午後。燦々と太陽が差し込む豪奢な客用リビングに通された私の目の前に、優雅な仕草で置かれた小さなスピーカーから流れてきたのは……その場にはあまりに似つかわしくない、ベッドの軋む音と……微かではあるけれど……思わずその場から逃げ出したくなるほど明らかな……自分の、嬌声。

 ショック……という言葉では、到底言い表せない程の衝撃だった。あの日、完全に力の抜け切った身体でどうやって帰ったかも思い出せない。

 そしてあろうことか、彼女が手にしていたのは、私の、詳細な、調査書。なんと、両親の故国であるブラジルのことまで綿密に調べ上げられた、それには。生母の、職業まで、調べ上げられていて。さらに――





「れいちゃん? 大丈夫?」

 心配そうに掛けられた声に、忌まわしい過去の記憶は一瞬で途切れても。身体の震えが止まらない。……ああ、どうして。私はあなたに出会ってしまったんだろう。気持ちが悪くて、みっともないことだと毛嫌いしてきた行為に、こんなにも溺れるほど。今も、彼の母親がどこかでじっと聞き耳を立てているかもしれないと言うのに。……もっとずっと……彼を感じていたい。

「あと……どれくらい……?」

 半分焦点の定まらない視線を壁時計の方角に向けながら訊ねれば、

「時間ですか?」

 まだ、あと1時間はありますよ。ピアノでも、弾きましょうか?と、さっきまでの艶っぽく情熱的な表情とは打って変わった穏やかな優しい笑顔が返ってきた。

「なんでも、好きな曲をリクエストしていいですよ?それとも、この前みたいに、一緒に弾いて見ますか?」
「ピアノは、最後の日でいい」
「ミニコンサート、楽しみにしててくださいね♪」
「こら。今はピアノの練習よりも勉強優先だって言ってるのに、」
「はいはい。心配しなくても大丈夫ですよー」

 それより、どうします?このまま、ごろごろしてますか?そう笑いながら覗き込まれて、その視線に含まれた熱を汲み取った。これまで、一度も自分から強請ったことは無いけれど……でも。もっと欲しい…………っていっても。軽蔑、しない、よ、ね?

「……じゃあ……」

 もういっかい、抱いて。……彼だけに聞こえるように、恐る恐る耳元に囁いて。恥ずかしさを誤魔化すために、きつく抱きついた。














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