The last ...?     (21)








「今日は前祝ですから、まず乾杯しましょう?」
「まだ未成年の癖に」

 そう言いながら軽く睨みつつも、差し出されたグラスに、手に取ったグラスを合わせれば、リン、と涼やかな音が響き、芳香がかすかに漂った。

 口に含んだ薔薇色の液体は、絶妙の甘みと酸味がバランスよく、フルーティーな香りに隠されたアルコールが後からふわり、と体温を上げてくるのが心地好い。確か、ドンペリとかいう極上のシャンパンのロゼ、なのだと前に教えられた。
 普段なら、つい下世話にも一杯あたりの値段を考えてしまい、貧乏くさいと内心苦笑しつつも、少しずつ楽しむところだ。けれど、先ほどのからの喉の渇きに、思わずぐいとグラスの3分の2ほど一気に呷ってしまった。勢いのつきすぎた一筋が、口元から零れ落ちたのを慌てて手の甲で押さえた途端、

「何やってるの。ほんと、先生ってば凶悪。」

 思いがけなく強い口調で咎められ、困惑した。細められた目は笑顔の形をとってはいるものの、決して笑っていないのがわかる。

「凶悪って……何が」
「そーゆーことを無意識でやっちゃうから」

 そーゆーこと? そう断言され、頭の中を盛大に疑問符が飛んだ。時々彼は、私には理解不能な論理を展開するときがあり、そんな時は大抵ついていけない。わからない。

「いま、手の甲吸ったでしょ、こんなふうに、」

 あ。

 彼の口元に持っていかれた自分の手。先ほど無意識に触れた部分に、彼の鮮やかな色をした唇がしっとりと触れる。それは、思いがけなく淫猥な光景で……

「……どうしたの? もしかして、感じちゃった?」

 くすくすと楽しそうな声。からかわれているらしいことは明確だ。自分から、彼のからかいのネタを提供したかと思うとなぜかひどく悔しくて、思わず顔を背け力ずくで手を戻そうとした。
 けれど男女の差は歴然としていて、無駄な足掻きだとすぐに悟るが、それでも。

「もう離して、」

 一応の抵抗は試みなければ気がすまないのは……性分だから仕方ない。

「どうしてですか」
「……このままじゃ、食べ難い」
「僕はそんなこと、ないですよ?」
「私は、食べ難い」
「じゃ、僕が食べさせてあげましょうか?」

 どうして話がそうなるんだろうか。まったく……本当に、

「………どうして今日は、」
「今日は、なに?」

 そんなに意地悪なんだ?――そう言おうとして――そんな言葉を口にすること自体、もしかしたら彼の思う壺なのかもしれない、ということにふいに気づいた。
 目の前の顔はニコニコと楽しげに笑っているのだが、よく見ればそれは上辺だけのようだった。その証拠に、細められた目が笑っていない。

 今日の彼は……どこか、いつもと違う。












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