The last ...?     (22)









 何となく最初から感じていた少しの違和感。それが、こうして何気ない会話を続けるうちに段々はっきりと見えてきたような気がする。……そうだ。いつもは。私のことをあれこれと揶揄する時も、その表情はもっと屈託が無くて、視線は温かくて……恥ずかしいくらい愛情に溢れているというのに。今、目の前にいる彼から感じるのは……愛情というよりは憎しみに近い……感情だ。



――なぜ、だ?



「僕の顔に何かついてます?」
「いや、そういうわけではない…けど」

 訝しく見つめていたのだろうか、にっこり、と笑みを深めて訊ねられた。瞬間、また、ぞくり、と背筋を駆け上がるものがあって、思わず握られたままの左手を引こうと力が篭った。

「どうして逃げるの、」
「に、逃げてなんか、ない」
「そうかなぁ?」

 笑った口元。からかい口調も相変わらず。けれど、その瞳に宿った鋭い光は、居た堪れなさを感じるには十分で。いっそのこと、いますぐ力ずくでも逃げ出してしまおうか、と考えた。
 だが――呼吸のために上下した胸の、その先に感じた刺激で――自分の状況を再認識し、愕然とした。いくらなんでも、こんな格好で人前には出られない。簡単に逃げ出せるような状態ではない。

「先生は……」

 自分の状況を再確認して途方にくれかけたところ、何かを言いかけたまま止まってしまった彼に視線を戻す。絶え間なく与え続けられる刺激のせいでうっすらと霞んだ視界に浮かんだ整った顔は、苦しげに歪んでいた。

「…………僕に、言わなきゃならないことがあるでしょう?」

 溜息とともに吐き出された言葉には、先ほどよりさらに不機嫌さが増している。

 一体どういうこと……だろう?

 いつもよりも早めに呼び出され、前祝だとかミニコンサートだとか言いいながら、いつの間にか恥ずかしい格好にさせられて……怒りたいのはこっちのほうだ、と内心毒づく。こうやって珍しく文句も言わず従っているというのに、そんなに不機嫌になられても……困る、というより………ムカツク。

「言わなきゃ、ならないこと?」

 口調がきつくなるのが止められない。そうだ。このまま……喧嘩別れするのも良いかもしれない。

「それを僕の口から言わせるつもりですか?」
「そっちこそ。私が何を言うべきか知っているなら、こんな手の込んだ演出をしなくても素直にそう言えば良い」
「……そういう口答えは可愛くないですよ」
「なくて結構。」
「……即答ですか」
「口答えするような私が気に入らないなら、もっと素直な子を探せばいい」

 そうだ。目の前の少年には、こんな捻くれものの……4つも年上で素性も知れない女より、あの許婚のような、可愛いらしくて家柄も申し分の無い女性がふさわしい。

 いつだって、そんなこと……頭では十分わかっていた。最初から、わかっていたはずだったくせに。今日は、別れの台詞さえずいぶん前から用意しているくせに。

 いざとなれば……こんなにも、胸が痛い。













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