The last ...?     (23)











 じくじくと痛みはじめた胸に、もうそれ以上の言葉は見つからなくて。

 これ以上感情の波に飲み込まれないように、下唇を噛むのが精一杯なのが情けない。それでも。睨みつけるように固定した視線を彼の瞳からはずさないのは、私なりの意地だ。

「それって……どういう意味ですか?」

 不機嫌そうに眇められた彼の目が、切れそうなほどの冷たさを宿し始めた。それは、出会った頃、特に彼の親の話をするときに時々垣間見たのと同じ……見つめられた瞬間に背筋が凍りつくような、冷たい、視線。

「言葉通りの意味だけど」

 震えそうになる口元をごまかすように、いつもよりも更にきつい口調で憎まれ口をたたく。このまま……嫌われてしまえばいい。可愛げの無い、最低な女だった、一時の気の迷いだった、と切り捨てられればいい、と願いながら。



「もう、僕は要らないの」

「……」



 彼の声が泣きそうに震えているように聞こえるのは、どこかで……そうであってくれればいい、と願う未練がましい気持ちのなせるわざか。
 はっきりと要らない、とも言えず、そのまま冷えた視線を受け止め続ける。



――お互いに沈黙のままの睨み合い。



 その嫌な緊張感をはらんだ空気を揺らしたのは、彼の深い溜息だった。

「そんな、物欲しそうな顔してるくせに、」

 口の端に冷たい笑みを乗せたまま発せられた言葉と、溜息の際に一度閉じられさらに冷たさを増した瞳が私の心臓を射る。凍りついた心臓からおくられる冷気で全身が凍り付いたように麻痺を始め、回転数の下がった頭では投げつけられた言葉の内容さえ理解できず。

「……物、欲しそう……?」

 ただ、オウムのように無意識に繰り返した。



「そうですよ、そんなに目をウルウルさせて……ああそうか、」
「……っ」

 握られた手の甲をつつっと指先でなぞられ。その場違いに甘い刺激に思わず、ぴくり、と反応してしまった。それを見た彼の笑みがさらに痛々しく歪む。

 そんな顔を、しないでほしい。

 ……ついそう思ってしまって内心苦笑した。こんな風に彼を怒らせ、傷つけ、去っていこうとしているのも自分の癖に。完全に、矛盾している。

「イ・ン・ラ・ンな麗華先生は、僕みたいな、年下じゃ、物足りなくなったんですよね」
「え?」
「そうなんじゃないの?」
「だから…何が……言いたい…」
「何が言いたいか、ですか。聡明な先生にしては、ずいぶん察しが悪いですね。それなら、」

 ほら。

――ぱさり、と乾いた音とともにテーブルの上に数枚の写真が投げ出された。

「これで僕の言いたいこと、わかりますよね」












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