The last ...? (30)
『なーに馬鹿なこと言ってるの。まぁでも、レイが少しでも嫉妬してくれたなら、私は嬉しいけど』
『はいはい、ご馳走さま』
私たちのただならぬ関係を思い切り肯定するディーの発言に、さらに居た堪れなさが増して下を向けば、初めて穿いたミニスカートの裾が思ったよりも上にあがっているのが視界に入って慌てた。
少しでも何とかしようと裾を掴んで引きおろしてみても大して事態は変わらない。困っていたら、それを察したディーが、ソファの背もたれと体の間に置いてあった自分の上着をそっと膝の上にのせてくれた。
『ああ、そう言えば、飲み物まだだったね。何にする?』
『私はいつものでいいわ』
『ギムレット? 相変わらず男前』
『あと、ピッツァマルゲリータもね。』
『ラジャー』
笑いを含んだロブの声。目の前でぽんぽんと繰り広げられる、軽妙なやり取り。どうして……こんな風に明るく楽しげに話ができるのだろう。
――別れた人と友達でいられるのだろう。
「あいつとは、いつから付き合ってる?」
飛びかけた意識を引き戻した、彼の断定的な言葉。冷たい声に唇を噛み締めた。
(ちがう……それは誤解だ)
言い返したい言葉は、頭の中だけで繰り返し……いま本心を悟られるわけにはいかないのだと、強く強く自分に言い聞かせ、
「そんなことっ…答える必要は、…ぁうっ……な、いっ」
一気に奥まで貫かれた衝撃に耐えつつ、それでも可愛げのない台詞を必死に口にした、あの日。
「……言えない、の?言えないほど……前から?」
「あっ…………ああっ、」
「僕と付き合ったのは……家庭教師をクビにならないため?」
(なるほど、そういう誤解をしているわけだ。それなら、)
「そう……その通りっ」
だって……茉莉香の手術代が…お金が、必要だったから、
「…だから……ああっ」
一番奥にある、ひどく敏感な場所を寸分違いなく強く擦りあげられ、悲鳴に似た声が無意識に零れた。身体の中心が意思とは関係なくぎゅうぎゅうと締まって。余計に強くなった快感に、涙が止め処なく溢れ視界が揺れた。
「いやっいやっ……っゆるし、……あっあっあっあっ…」
激しく同じ箇所を突き上げられ体ごと揺さぶられて、行過ぎた快感に意識が引き千切られそうだった。拘束された腕ではいつものように縋りつけなくて。身体の中心は熱いのに……堪らなく寒くて、寂しくて。キスが、して欲しくて……でも、言えなくて。とにかく頭を振りながら泣き続けた。
『で……?レイは、何にする?』
大抵のものはあるわよ、と話しかけられて我に返った。――まったく何故こんな時にあんな場面を思い出す?
『どうしたの?もう疲れちゃったかしら、』
そういって顔を覗き込んだディーが、軽く目見開いて、そしてすぐに細めてきた。恐らく……私の様子から何かを読み取ったのだと思う。いつもいつも。そうやって些細な私の変化に気づくのだ、彼女は。最初は、それが嫌だった。何もかも、見透かされてしまうようで……怖い、と思った。けれど、
もっと自分に自信を持って
もっと自分にも他人にも素直に
もっと人生を楽しんで生きられるようになりなさい……
彼女が事あるごとに私にくれたメッセージは、私を支え、躊躇う背中を優しく押してくれた。
貴史君を諦め……まるでそれと引き換えにするように大金を手にした自分を呪っていた私。両親のことや茉莉香や龍斗のこともあり、結局、希望通りの大手企業にも就職できず。希望する職種に就くには学歴が足りない(経営コンサルタントになるには、少なくとも修士課程卒が必要だった。できれば海外の大学院が望ましい、という世界だ)ことに絶望していた私。そんな私を、社員として文字通り拾い上げ、女らしい服装やメイクに始まり、口の利き方やら挨拶の仕方やら……果てはクライアントからの誘いの上手な断り方まで、手取り足取り……いろいろ教えてくれ社会に適応できるようにしてくれたのはディーだった。
そして……恋人として、ベッドで…素直になること、さえ。
――好きなものは好き、と遠慮せず口に出すこと。
それは最初に彼女から教えられたことだ。それまで知らず知らずのうちに家族(実は血のつながった本当の家族ではなかったが)に対してさえ、遠慮しかしたことのなかった私にとって一番、必要かつ難しいレッスンだった。いや、それは今も難しいことなのだけれど。
『ジャック・ダニエル、お願いします』
『は?』
驚いた顔の彼を可笑しく思えば、
『ベビーフェイスだからって女の子を甘く見ちゃダメなのよ』
相変わらずまだまだ修行が足りないわねぇ、そう言ってディーが笑うから。
つられて私も、少し笑った。
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