The last ...? (32)
『……』
今度は、彼の方が沈黙した。この沈黙は、どういう意味なのだろうか。
自分が人の感情に疎いことは百も承知。ましてや初対面の相手の気持ちを汲み取るなどということは至難の業だ。けれど、この沈黙の意味を図りかねれば、これ以降の会話の意味がなくなってしまうのは必至。よく…考えなければ。
元夫が、別れた妻の恋人に詰め寄る理由を。
『もしかして……』『君は……』
言葉を発するタイミングが重なった。
『……』
また、沈黙だ。――どうする?次の手は?
『レ〜〜〜イ〜〜〜っ♪』
こちらの沈黙と、周りの騒音めいた音楽を凌駕するような大声が響いたかと思えば、
『さ、帰るわよ!!』
突然戻ってきたディーに後ろから抱きかかえられるようにして立ち上がらされ、ほとんど引きずられる様にして……表に出てしまった。ロブとの会話は宙に浮いたまま……だ。
『っちょ、と、ディー!? まだ来たばかりなのに、』
『なぁ〜に、レイカはまだあんな場所に居たかったわけ?』
『……こんなに突然、彼に挨拶もなしに帰るなんて』
いくらなんでも不躾だ、と思う。まだ夕飯のピザも食べてなかったし……もったいない。
「いいのいいのっ!No problem♪」
だって、我慢できなかったのよ。そう低く呟いた声に、相当の怒りが含まれているのにぎょっとした。
「……でも」
「もしかして、レイ、あなた気づいてなかったの?」
「何を?」
「...eyes of guys on you...」
「は?」
男たちの視線って……なんだそれ。
「被害妄想…?」
「何言ってるの!だめよ、もっと敏感にならないと」
これから、ひとりで生きてけないわよ。
「…え?」
「危険を察知する能力をもっと磨きなさいって、いつも言ってるでしょ」
特に、今日はそんな格好なんだしっ、て。
「こんな短いスカートも、胸を強調するようなニットも…選んだのはディーの癖に」
こんな格好ははっきり言って私の趣味じゃない。……というよりも、こんな目立つ格好は自分では絶対にしない。実は、ファッションにいちいち気を使うのは時間の無駄だと、今でも思っている。
ただし、“ビジネスの場で着る服は戦闘服”だというディーの教えに基づいて、仕事に来ていく洋服を選ぶための時間は惜しまなくなった。昔はほとんど身に着けることがなかったアクセサリーも、場面や相手を考えてコーディネートしているし、場合によってはハイヒールも履く。
家に居るときは、相変わらずだけれど。
「……それは、あなたの訓練のために決まってるでしょ」
そう言い捨てて、カツカツとヒールの音をさせて足早に通りを歩いて行ってしまった彼女を必死で追いかけた。
「ちょっとっ…ディー…まってっ…っっ」
ミニスカートにハイヒールという歩きづらい格好のせいで、普段より息が上がってしまっているせいか、思ったように喋れない。まさかこんな場所に置き去りにされるわけはない、と思いつつも、振り向く素振りさえなく遠ざかっていく背中に不安が煽られて……文字通り、必死に追いかけた。
「…ダイ……ア…な……っ」
さっさと先にタクシーに乗り込んでしまった彼女の横に、かろうじて体を滑り込ませほっとしたのも束の間。
「っっ!?」
シートに座った途端、ぐい、と強い力で引き寄せられ……文句のひとつも言おうと開きかけた口は、ディーの熱い唇で塞がれた。
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