The last ...? (33)
「んっ…っんっ」
突然仕掛けられた激しく深い口付けに、鼻から抜けてしまう声が止められない。
ここはタクシーの中だというのに……。
(平然と運転を続けている運転手は一体どう思ってるのだろう)
万国共通の酔った勢いとか…そのまんま、レズカップルのラブシーンとかだろうか……頭の片隅でそんなことを考えながらも、ホテルに着くまでの数分間、ディーに求められるままキスを続けた。背中を追っていたときの不安な気持ちを、彼女の温もりで消し去りたかった。
「…ん、っ…や……っ」
やめてっ、こんなところで……っ。ホテルのエレベーターの中、斜め後ろに立ったディーが、背後から足の間に手を忍び込ませてきたのに慌てて手を押さえて、抗議した。
「人が来たらっ…どうす……っ…あっ」
「大丈夫よ」
わかりっこないわ。レイが声を出さなければね。そう言ってにっこりと、美しく笑うディー。
「そ…っん、あっっ」
確かに、傍目からは女二人が並んで立っているだけに見えるだろう。
ここが日本よりはずっと同性愛についてはオープンな土地柄としても、ゲイやレズのカップルが一般化しているとは思えない。だからいくら親密そうにしていても、女二人連れ=カップルとみなすよりも、友人同士もしくはたまたま一緒になった赤の他人と思う方が自然に決まっている。
まさか後ろの女が前の女のスカートの下から手を忍ばせて、怪しい部分を弄っていることなど、気づく人はいないだろう。
けれど、だからといって……とりあえず今は、密室の中に二人きりだが……いつ、この目の前の扉が開いて他の客が乗り込んでくるかと思うと、気が気ではない。
ああそういえば。防犯カメラ……は? まさか……
「…っ、…もしかしたらっ…っモニターで見られてるかも…っ」
「ふふ。いいじゃない、見せてあげれば。スリルがあると、興奮するわね〜」
レイもでしょ? ……すっごく濡れてる……首筋に息を吹きかけるようにして囁かれて、思わず体に力が入る。
「そんなこと…っ」
「あるわよ?」
ほら。そう言って、わざと水音を立てる意地悪な指に翻弄され。……エレベーターの扉が目的の階で開いたときには、すでに膝に力が入らない状態になっていた。
長身のディーに抱えらるようにして部屋までやっとのことで辿り着けば、ドアを閉めたとたんにまた深いキスに捉えられる。そのままコートや上着を脱がされ、鞄も靴もその場に置き去りにしたまま、もつれるようにベッドの上に倒れこんだ。
気づけば半端にブラウスとブラジャーを身に着けた、ほとんど全裸に近い状態になっていた。こんなに性急な彼女は久しぶり…というか……もしかしたら、初めて抱かれた時以来かもしれない。
「ディー?」
自分はあっさりとすべての衣服を脱ぎ去った彼女が、ごそごそとスーツケースの中を探しているのを訝しく思って声をかけた。彼女愛用のディルドなら枕元にしまってあったはずだったから。
他のもの……というと、時々使われる電動の、アレ…?だろうか。そう考えて、少し不安になった。私は正直言って、それが好きではない。こんなに年月が経っているのに馬鹿馬鹿しいとは思うものの、どうしても彼との最後の夜を思い出してしまうからだ。
「お待たせ」
そう言って私の上に圧し掛かってきた彼女の楽しげな顔を見上げれば、不安な気持ちが顔に出ていたらしく、
「なぁに、そんな不安そうな顔しちゃって」
大丈夫よ、痛いことはしないから。そう言って鮮やかなウインクと触れるだけのキスが降ってきた。ふと視線を下ろせば……彼女の腰には黒いバンドで留めるタイプの、ディルド……。いつもの、ダブルなんとか…という、互いに快感を分かち合うための道具ではない。……女同士ではどうしても不足してしまう部分を補う、偽物が装着されていて。
「なんだか……嫌な予感」
こっそりと呟いた予感は、この後現実のものとなったのだった。
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