――欲しくなっちゃった…………って?一体、



「………何、を?」
「あなたを」





The last ...?     G





 吃驚しすぎて固まったままの私に追い討ちをかけるように、じっと熱い視線でこちらを見つめながらそんな言葉を言う清水くんの本意が………よくわからない。これは、いわゆる軽い冗談、というやつなのだろうか。こういう場合、普通の友人同士とか、普通の気の置けない同僚同士なら……どうやって返すものなのだろう?

 私を欲しい、というのは、どういう意味なんだろうか。ああ、もしかして、このレストランのウエイトレスが人手不足だとか。それとも、

 『れいちゃん、僕が欲しいって言ってごらん?』

 突然思い出したのは、つい先日貴史くんにベッドの中で囁かれた言葉。こんな場所で、こんな場面で……私は一体何を。
 そう思った途端に、かぁっと全身が熱くなったのをどうにかごまかそうと、きり、と奥歯を噛んで視線を外し、手を出しかけていたコーヒーを慌てて口に含んだところで、また彼が口を開いた。



「望月さん、僕にしなよ」

 あいつなんかすっぱり切り捨ててさ、そんなセリフをにっこりと微笑んだまま言われても……あいつ、って……切り捨てるって……一体、誰のことを言っている……?

「どう?それほど見劣りする物件だとはおもわないけど?」
「……物件、…?」

 続けられた言葉に、ますます何のことかわからなくなってしまった。

「宣報堂と、比べても、ってことさ。海外でのネットワークは比べ物にならないけど、国内ならこっちの方が上だと思うよ」

 そう言われても。宣報堂と、清水くんの何を比べろ、と? いや、物件の話だからこのレストランか。国内と海外のネットワーク云々というのだから、この店はフランチャイズか何かなんだろうか。

「あーもう、そんなに眉間に皺を寄せて考え込まないで、」
「……意味が、わからない、んだけど」
「“SIMIZUエンタープライズ”って言えば、わかる?」
「シミズ………えんたーぷらいず………って、っ………もしかして、清水くんの、お父様、……は、………清水浩三………?」
「そう、その通り。やっと分かってくれた?」

 ああ……そうか。清水……SIMIZU……言われてみれば、成る程そのまんま、だ。だけど割りに一般的な名前だったから、今の今まで気がつかなかった。そうだ。そう言えば、このホテルも確か……

「このレストランだけじゃなく、確かこのホテルはSIMIZUエンタープライズ直営の……」
「そう。ウチが経営してる。……それに、この前の……ホテルも、ね」




 ……え?………ホテル…?……この前、って?

「あの夜。ほら、僕たちのバイトが終わったところで彼が待ち伏せしてたことがあったでしょ。望月さんはあのままあそこに一緒に泊まったんだよね、教え子君――木村、貴史と、」

 そこまで言われてやっと……彼の言わんとしている意味がわかった。

「……そんな……」

 思わず呟いた声がざわざわと、嫌な具合に背中が粟立って、すう、と頭が後ろに持っていかれるような感じがして気持ち悪い。………………ああ、まさか……まさか…、

「……調べた、の、」
「うん?……まぁ、ちょっと気になったから、顔見知りのベルボーイに声かけただけだよ、」

 くすり、と笑われて。ぞわ、と再び寒気に襲われた。と同時に、頬が燃えるように熱くなる。

「それに。――あの後から望月さん、急に雰囲気変わったからね。何があったかなんて、すぐわかるよ。」

 くすくす笑われて、本当に今度こそ居た堪れなくなった。……ああ、やっぱり……私をこうやってからかうために、こんなところまで連れて来たんだ。恥ずかしい………できることなら今すぐ走ってこの場を逃げ出したい。



 もう、まともに顔さえ上げていられなくて。
 彼と目をあわせていられなくて。
 とにかく……その場しのぎで、俯いた。







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