Ma petite douceur
                〜あるいは、想定外の日常〜




                        第11話






 強いビートと強烈なライトの点滅を受けて、音楽の洪水に身を任せる。
 振り付けを決めて何度も練習してステージで踊るのも好きだけど、こうやって自在にそのときの気分で踊るのが私は好き。

 踊り始めて1曲目の途中だけど、さっきまであれほど混雑していたフロアが、今はガラガラ……というか。私の周りだけどんどん人が引いていって、いつの間にか自由に手足を動かせるだけの空間が生まれていた。

(気持ち、いい〜〜!!)

 皆、遠巻きに踊り狂う私を見ている。

 そもそも。私に理解不能なのは。……ディスコで踊るにも、いつの間にやら共通の振り付けが存在するっていうこと。

 なんか派手な扇子を持って“お立ち台”とか呼ばれる段の上で踊るのも流行らしい。しかも、その振り付けは主に手だけ動かすものだったりする。みんなで合わせて同じ振り……しかも手だけ……思わず盆踊りを想像してしまう。とにかく“皆と一緒”が落ち着くらしいのが日本人の特性だから仕方ないといえば仕方ないけど。

 でも、ダンスなんて音楽に合わせて身体を気持ちよく動かせば良いと思うんだけどなぁ。ま、私は自由に踊らせてもらうから、いいけどね。

(に、しても誤算だったわ)

 え?何が誤算だったかって……それは……今も感じる熱い視線……の主が、こんなところにいたってこと。

『真澄ちゃん!』

 嬉しそうな笑顔で、店に入った私に真っ先に気づいて手を挙げてきたのは――数時間前に爆弾発言を落として爽やかに帰っていった――畑森さん、だった。

『あの、どうしてここに?……今日はもう帰ったんじゃ……』
『うん。いったん帰って、着替えてきたんだ』

 やっぱりディスコだしね、そんなことを言いながらウィンクを嫌味なく決めた彼は、ダークスーツにグレーのシャツ。ネクタイはごく薄いピンクのようだ。髪も軽くムースかなんかで軽く後ろに流すように纏められていて、その整った顔立ちに精悍さを加えていて、なかなか男前だ。

 先日、初めて会ったときもスーツだったけど、あの時とは全然雰囲気が違う。

(なんか……)

 自分の見せ方を良く心得た人なんだな、と思う。これで図らずも、「仕事モード」「休日モード」「遊びモード」の3つを見せてもらっちゃったわけだけど、どれも彼らしさを損なっていないのに、それぞれ鮮やかに印象が違っているのが見事だ。



「ぅわっ」

 みんなが遠巻きにしていることを前提に踊っていた私は、突然、背中と片手を支えられ、がくっとなるほど身体を傾けられて吃驚した。

「ごめん。びっくりした?」

 “ごめん”というよりも、喜色満面というほうが相応しいような表情をしたアフリカン・アメリカンは…もちろん、コウジだ。

「当ったり前でしょ!」
「でも、えみりぃを見てたら、セッションしたくなっちゃって」

 そう言いながら、的確に私の身体を誘導しながら見事なステップを次々と決めていく。

「ね、いい?」
「良いも何も……」

 すでに身体は走り始めちゃってるくせに。
 それにこの曲……二人が最後のステージで踊った曲だし。私も、今日は……

「いっちょ、暴れますか!」

(そんな気分だし、ちょうどいいや)



 あうんの呼吸でステップを踏めば、もうすでにディスコ中の注目が私とコウジに集まっていた。他に踊っている人は誰もいない。みんな、私たちの息の合ったダンスに釘付けになっているのだ。

「ふふ。さいこー」
「だね」

 やっぱりプロを目指しているだけあって、コウジの踊りは半端じゃない。普段の、ほんわか天然クンとはオーラが違う。華があるし、キレと迫力が、その辺のダンサーとは雲泥の差。誰もが目を惹きつけられる。そんなコウジと踊るのということは、負けん気の強い私にとっては一種の戦いみたいなものなのだけど……


「たーーのーーしーーっ!」
「俺も♪」









back/NOVEL/next







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送