The last ...? J
まぁさ、あいつから何にも聞いてないならそれでいいんじゃない、と、眩しいほど屈託のない笑顔で言われて閉口した。何、その変り身の速さ。……唇は血の跡が生々しくてけっこう腫れているけれど……それがなかったら、テレビCMにこのまま出られそうなほど絵に描いたような爽やか好青年だ。
そして今度は、
「それにしても本当に、今日はどうしたの?」
……もしかして、茉莉香ちゃんの具合があまり良くない、とか…? などと遠慮がちに訊いてくる。
「いや、茉莉香は…大丈夫、」
「ふぅん………ま、じゃ、いっか。ごめんね、勝手に気を回しちゃってさ。な〜んか、ほっとけないんだよね、望月さんって」
いっか、って、何? そんな風に軽く流せる話題でも状況でもないと思うのだけど。相変わらず不機嫌な顔で睨みつけている私のことなど気にも留めない様子の、このSIMIZUエンタープライズ御曹司殿は、
「あ〜ほらほら、突っ立ってないで、座って座って。せっかくなんだから、デザート食べちゃって、」
アイス溶けちゃうでしょ? と暢気なセリフ。本当に………どこまで真面目なんだか、ふざけているのか。それにしても、こんな状態で話をうやむやにされるのは気持ち悪いことこの上ない。
「そんな風に、デザートで誤魔化すなんて、卑怯だ。」
「……卑怯って、ねぇ。大抵の女の子は、デザートで誤魔化されてくれるんだけどなぁ……うーん……僕が話したら、望月さんも、ちゃんと話してくれる?…これでも僕はさ、真剣に心配してるんだけど?」
話せって言われても……本当のことを話すわけにはいかない。でも、
「…わかった、善処する」
「あはは、何ーその、善処するって。政治家や官僚の答弁じゃないんだから。」
ふぅ、と苦しげに吐き出した清水君はもう一度自席に戻った。長い足を組んで、背もたれにほとんど乗っかるように寄りかかって座り、天井の一点を見つめながら前髪を左手でわしわしと掴んで顰め面をしたり、うーん、と唸ったり忙しい。
「……んー。あのね、噂だけど、っていうか、これは木村貴史の元家庭教師数人とその周辺から聞いた話なんだけど、」
こちらを向き直る前にもう一度、さらに深い溜息を一つ吐いて…………彼は静かに話し始めた。
「これまで…あいつ、木村貴史、の家庭教師をやって、3ヶ月以上もった人間はいなかったらしいって、望月さん知ってた?」
知らない、と答えると、そう、という簡潔な返事。
「でね、……えっとー、簡潔に言うさ、あいつにさんざん玩具みたいに遊ばれて、……捨てられる。っていうか、強制的に解雇されてきたらしいんだよね。具体的にどんな遊ばれ方かは……まったくのケースバイケースで……そこんところは、まぁ、相手による、みたいなんだけど、」
ただ、共通しているのは、後で問題にされたり訴えられたりしないように、巧妙に作られた契約書が存在することと、多くの場合……証拠を突きつけられて、脅される、ってことかな…………って。
それって……私の場合も、まったく同じ、だ。
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