The last ...?     P








 滲んだ視界で天井の木目を眺めながら、止め処も無い思考は、当時の父母の心境へと移っていった。

 私を発見したちょうど数日前に、自分の娘を病気で亡くしたばかりだったという二人。一体どんな想いで、殺された売春婦の娘など……引き取ることにしたのだろうか。

 二人とも、本当の事について触れたことも仄めかしたこともない。きっと私が真実を知っているなどとも、露ほども考えていないだろう。

「全然、似てなんかいないのに」

 そう、親子だなんて……今までそう思い込んでこれたことが不思議なくらい似ていない。ただ、ずっと一緒に暮らしているせいで、どことなく…雰囲気とか、似てきているかもしれないけれど。とんでもないこの出自を、両親は今も私から隠してくれているというのに……勝手に真実を知ってしまった上に、こうやってあれこれ悩んだりしている自分は、裏切り者のような気がして辛い……だが……自分と両親を、茉莉香たちと自分に置き換えて考えてみれば……

 最初は本物の「ママ」を求めて毎晩泣いていた二人だが、いつの間にか私を「まぁま」と、愛らしく呼ぶようになって。学業とバイトを両立させ、家事の負担も負いながら、小さな子供たちを育てるのは本当に大変だった。思わず声を荒げて叱ってしまうことだって度々だけれど……大変さを上回る幸せを二人からはもらっている。この子達が不幸になるくらいなら、いくらだって自分が犠牲になろうと思うくらいは……二人のことを愛している。

 もしも……ある日突然、今、自分の両側で穏やかな寝息を立てている温かな命が無くなってしまったとしたらどうだろう。人生なんて何があるかわからない。ましてや茉莉香は手術が必要な身。もしものことが無いとは言い切れないではないか……もし、もしそうなったとして……

 考えただけで、涙が止まらなくなった。

 腕の中のぬくもりが愛しくて愛しくて。堪らず、ぎゅうと抱きしめた。茉莉香も龍斗も、自分で産んだ子ではない。もちろん、血だって全く繋がってはいない。けれど。



 ああ……そうだな。血が繋がっていなくても、こんな風に愛おしい気持ちは湧くのだ。父も母も、ブラジルで育ったわりにはどちらかと言うと伝統的日本人に近い感情表現――つまり、あまり感情を表に出さない、とか余計なことは言わない、とかそういう感じ――なのだが。

 それでも。

――きっと、彼らなりに私を大切に思ってくれたから……に、違いない。

 周囲を説得して自分の子として育てようとしたくらいには。きっと、私のことを愛してくれているはずだ……。どんな人間の子かさえもわからないのに。ありがたくて…また、涙が溢れた。



「……あなたたちのことは、ママが守るからね」

 そうだ。私にはこの子達がいる。元々、恋愛だの結婚だの、興味もなければ憧れもなかったはずではないか。貴史くんとの事は……一生に一度の思い出として大事にすればいい。たとえ彼がどんなつもりだったとしても。人を好きになる、という経験を得られた。それだけでも、以前の私には考えられもしないこと。奇跡のような日々に感謝しよう。

「あと……二回」

 辛い役回りを演じなければならないことはわかっている。でも、きっと……演じきってみせる。彼のために。この子達のために……私自身のために。











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