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 バスルームから出た私は、あっという間に貴史くんの腕の中に収まっていた。
 予告も無しにいきなり背後から抱きしめられ、咄嗟に竦んだ耳元に、ぴったりですね、本当によく似合ってます、ハリウッド女優みたいで素敵です、と矢継ぎ早に甘すぎる言葉をかけられ。

 気はずかしさに硬直すれば。さも当然、という迷いのなさで胸元に滑り込んできた手が、胸の膨らみをゆっくりと柔らかく揉み込んできて。……身体の芯にじりじりと快感の炎が溜まりはじめ、視界が潤み、……呼吸が、鼓動が、…………速く、なる。

 柔らかな快感に飲み込まれて思考が麻痺し始めたそのとき、ぴりっとした痛みとともに胸の尖りに取り付けられたのは……硬くなって形を変えた部分を挟む……ピアスのような、金属。

「……っ……やっ……、……」

 とっさに身を捩っても、填められた輪がはずれるわけもない。

「ふふ。いい声。…せんせい、これ、好きですよね」
「……ち、が……っ……やだ…、っ……はずし、て……」
「だ〜め。……嫌って…うそばっかり。この前もすごく気持ち良さそうでしたよ?」

 ほら、こんなに……そう言いながら、勃ちあがったまま固定されて、ことさら敏感になった部分を布越しに弾かれ、押し潰しながらくるくると捏ねられて、

「気持ち、いいでしょ?」

 低く囁かれてよみがえったのは、去年の、ホワイトデーの記憶。あの時は……10倍返しだとか、いろいろ理由をつけられて……初めて、意識を飛ばすまで彼に追い詰められた。いろいろな、道具を目の前に置かれて……どんな用途のものかさえ良くわからないままに、自分で選ぶように促されて……。そうだ。こんなもの、自分ではずせばいい。確か……着脱はそう難しいものではなかったはず、………そう気づいて、ほとんど無意識に手を伸ばしたが、すぐに彼の大きな手につかまってしまった。

「だめですよ、自分ではずしたりしたら、」

 まぁ、もっと別のオモチャがご希望ならご用意いたしますけど、とこちらの考えを読んだかの様なセリフを乗せた声は、普段よりワントーン低く、甘く掠れていて。

 ああどうしても………どうしてもこの声には、抗えない。まるで催眠術にかかったように、彼の言葉より他には何も考えられなくなってしまう。

 こんなものをつけたままでいなければならないのは、正直、不本意だ。けれど、彼の言うところの、私には用途がさっぱりわからないような他のオモチャ、や、正視するのさえ躊躇われるような、あからさまな姿形をしたものを試すことになるよりはまだマシかと、ぼんやりとした思考で結論を下し、とりあえずこの状況を受け入れることに決めた。

 こちらが覚悟を決めたのが合図だったかのように、あっさりと私の体を離した彼は、

「では、まず食事にしましょう?」

 にっこりと何事もなかったかのように爽やかに笑い、すっかり準備の整ったテーブルに――いつかのパーティーで許婚だという少女をエスコートしていた時と同じように、洗練された優雅な仕草で――私を導いていく。

 ただ軽く腰に添えられただけの手から伝わる温もり。それだけで、身体の中心を焦がすような疼きが生まれ、私は思わず眉間しわを寄せた。下唇を噛むというささやかな抵抗を試みたのだが、そんなものは無駄だと言わんばかりに、ひも状の下着が一歩踏み出すたびに少しずつ柔らかい部分に食い込み、おぼろげだった疼きを炎に変える……。

「さあ、どうぞ」

 ちょうど良い空間を空けて引かれた椅子に腰掛ければ、軽い絶頂を迎える一歩手前まで高まってしまった部分が、ゆっくりと収縮を繰り返して。

――今まで感じたことの無いような切なさに、視界は潤み、口が渇く。

「エロい顔」

 独り言のような呟きに、え?と視線を上げれば、どこか悪魔的な微笑を称えた貴史くんがグラスを掲げていた。












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