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8.幸せになろう(1)



優司からは、毎日のように、忙しい合間を縫って書いているだろう手紙が届いていた。


――「愛する月子さんへ」で必ず始まる手紙は、ちょっと四角張った右上がりの字で書かれてる。
お世辞にも上手いとはいえない字だけれど、思いの丈が込められた……彼からの手紙。
時には、日に2通も3通も書いてくることもある。

『ほ〜ら、ツキコ、今日も届いてるよ〜』

……あんまり数が多いせいで、寮の管理人さんに顔を覚えられて呼び止められるようになってしまったほどで。
ちょっと恥ずかしいような、うれしいような。


×月××日
そちらの天気はどうですか?東京は毎日暑くて、最高気温の記録更新中。
……アナタのことが心配。ねえ、本当に大丈夫?また街で赤ちゃんを見かけて泣いてたりしてない?ひとりで行かせたことをちょっと後悔してる。ねえ、早く戻ってきて?
俺、月子さんに逢いたくて死にそう……。


×月××日
最近ずっと考えてるのは。もしかして、俺の愛は、押し付けじゃなかっただろうか?ってこと。あなたの優しさに甘えて、自分のやりたいこと、欲しいものばかり追い求めてたような気がする。あなたの事、考えているようで、実際は、自己中だった。そうじゃなければ、月子さんをこんなに傷つけずに済んだかも知れないのに。
これからは、もっと強くて大きな人間になるよ。だから、俺のこと、嫌いにならないで? ちゃんと、戻ってきてくれるよね?
愛してる、愛してる、愛してる……。


×月××日
お知らせすることがあります。月子さんを襲った犯人たちが捕まったよ。加藤のこと、覚えててくれたのが幸いした。事務所との契約も、無事に解消できたし、俺は独立することになった。月子さんの言うとおり、仕事は続けるよ。
あなたに逢いたい………もう、それだけでいいから。……どうか、無事に戻って来て。
早く俺の元に戻って来て……?誰よりも、愛してる………。
ああ、もう!オフができたらそっちに行っちゃおうかなー。少しでも早く……逢いたい……。


×月××日
月子さん、元気?この前の、バスの中で出会った親子の話、素敵だね。
あ、それから。男の人からの食事の誘いに乗ったりしたらダメだよ。アナタって、変なところ無防備だから……。絶対ダメだからね!わかってる?虫除けにあげた指輪、ちゃんとしてて。決してはずさないように。
俺は今、事務所の開設準備に追われています。本当は、そっちまで飛んでいきたいけど。
あと1週間だね。一日千秋って昔の人が言ったの、今なら分かる気がする。
そろそろ日数的に、これが最後の手紙かな。空港には「絶対に」迎えにいくからね!!






(ねえ、優司。私の祈りは、あなたにも届いている?届いてるよね?)






――いつからか。


私たちは、二人の手紙の内容がシンクロしていることに気づいた。

少しずつ、月子が強くなっていくと、優司も強くなる。
もちろん手紙は数日間遅れて届くのだけれど。
優司が綴ってくる気持ちと同じような内容が、不思議にも月子の日記の同じ日付に記されているを発見して。


二人で驚いて。
そして、一緒に出した答え……。



どんなに遠く離れても。
愛しあう人とは命が繋がっている。
どこか、見えない深いところで。
普通に生きていても、わからないかもしれないけれど。
たくさんの悲しみと苦しみを味わった挙句に見つけた。
とても、幸運な真実。
私たちは、それを実感している。
だから。
もう、恐れるのはやめよう。
勝ち取ったこの命を無駄にしないで、精一杯生きよう。
繋がってるあなたのためにも、私のためにも。
どうせ二人で生きるなら……




――幸せになろう。





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